カブトムシ、オジさんを嗅ぐ

お家柄の差で、好きなひとと結婚できなかったオジさんと、それにまとわりつくカブ(わたくし)の、恋愛に至らない日々

カブは言えない

私たち

という言葉が、ずっと使えなかった。

 

私と、あなた

二人は、ずっと別々の人だった。

 

そういう空気があった。

仲はいいんだけど、壁がある。

 

今、知り合って 四年くらいか。

オジさんと 一昨年家を借りた。

変な話である。

 

オジさんの車好きが高じて、自宅保管だけでは足りなくなった。

カブはカブで、保持十年以上経った愛車は、一度エンジンを載せ替えている。

バージョンアップではない。エンジンやらかして死んだやつを、その時は、どうしてもどうしても諦められず、同程度のエンジンをオークションで探して移植し、生ける屍にしてしまった。

それから、小さい故障は日常茶飯事になり、やっぱり諦められないカブは、オジさんのバックアップもあり、部品取りの車体を手に入れた。

 

お互いの欲するものが合致し、ガレージとして倉庫を探した。

ガレージっぽく探すと、なかなか条件に合う物件は見つからず、あってもとんでもなくお高く 途方にくれている中、カフェでお茶してたら唐突に、

これ、良くない?

と言うオジ。

 

築九十年長屋、三年契約、手入れ自由。

その日のうちに 借りることを決めた。

カブは、部品取りの保管場所として、月額で何分の一かの賃料を負担する。

 

オジさんもカブも、モノが好きだ。

ハマっているのは 旧車、昭和雑貨

オジは、車関係、ラジオ テレビ レコード なんかを、倉庫の広さ分 ストレスなく集め始めた。

カブは二階の一室を確保し、お化け屋敷みたいなそこを、天井から掃除し、畳を替え 襖を貼り直し 壁を補修し 電気をつけ…

自分の城をつくっている。

 

週に一、二回、そんなことをして遊んでいる。

くだらなく幸せな日々。

 

この古家の話を、オジさんは イベントなどで会う車仲間に話していた。

その時、

僕らの倉庫なんかねぇ…人に見せるのは恥ずかしいよね

 

僕らの

“僕らの”

ぼくらの!?

 

オジさんが!

私とあなた を、僕ら と言った。

一人称!!

 

衝撃であった。

 

しょうもない。

その場合そう言うでしょう…というような、小さなことを拾い上げ、これはそういうことでしょう!ズバリそうでしょう!?などと、丸尾くんのように騒ぎ立てます。

いえ、実際騒いだりはしません。小さくほくそ笑みます。

 

変な話である。