カブトムシ、オジさんを嗅ぐ

お家柄の差で、好きなひとと結婚できなかったオジさんと、それにまとわりつくカブ(わたくし)の、恋愛に至らない日々

ぺちゃんこの願い

新しい古い車が、やっとカブの家に来た。

 

昨日は、その車のデビューイベントだった。

色んなイベントが中止になって、やっと始まったこれの前のイベントには間に合わず、デビューイベントは、今回出てしまったら二度と出られないような大きなイベントだ。

 

しくじることがあってはならない。

まず、運転できなきゃ話にならない…と、先週明け、オジに付き合ってもらって初めて公道に出た。

 

カブは、人を乗せるのが大嫌い。

特に、カブより車を知っててカブより運転が上手いであろう人とか。

自信がないのだ恥ずかしくて敵わんのだ。緊張するのだ。

だから出会った頃から、カブの車で出かけても、オジを迎えに行ったら運転を代わってもらっていた。

最初はお願いをして、今は当たり前に運転席に座ってくれる。

 

なので、オジを乗せてカブが運転したことは、たぶん二回くらいしかない。ほんのちょっとの距離とか。

けど、万一の時助けてくれるのはオジしかいない。背に腹は変えられない。仕方なく乗っていただく。

もう、それだけで緊張なのに、下手くそな運転まで披露するとは…

 

オジは、乗ることにはニヤニヤしていたけど、運転については特に何も言わなかった。

ここで叱られたりけなされたりしたら最弱メンタルなカブは立ち直れなくことを知っているので、あえて何も言わないでいてくれたのか、オジはそもそもそういう人であるからなのか、とにかく、

まあ。まあ大丈夫っしょ。

と言ってくれたので、全てが大丈夫になった。

 

本番は、ガチガチ緊張と恐怖に苛まれ、しょっぱなコースミスをしたり、沿道に出て手を振る市民の皆様の前でエンストを何回かかまし、まあでも、こんなもんでしょ、

で、たくさんの旧車乗りや旧車好きな人たちに声をかけていただいた。今後につながるであろう知り合いもできた。

素晴らしい一日だ。

 

そして帰り。

体力と気力が残っていたら、家に乗って帰る。と、言っていたけど、同行していたムスメ(旧車二台持ち)が運転をしたがったので、カブより全然乗れるでしょ、って言うオジにチョットぶーたれながら、ハンドルを任せた。

 

今まで約半年、オジの家の子みたいにオジのとこに置いていてもらったカブの車は、ウチの子になる。

ウチに来るワクワクと、そういう寂しさみたいので、気持ちがキュッとする。

 

オジの家や二人の倉庫にあった時は、この車を触ることとか乗ることで一緒に楽しんだ。

修理に出すのだってレッカー呼ぶのだって、みんなオジに手伝ってもらった。

カブの車がカブの家に来たら、もうおいそれとオジの家まで走って行くことはできない。なにしろ古い車だし、パワーもないし。

ムスメの車も同じくらい古い。これからは、義父の車を借りるか電車で通う事になる。

 

イベントの最中、二人の車の並び順が前後で、仲がいいのが他の参加者やお客の人に分かったらしく、

「ご夫婦ですか?」って聞かれた。

オジは即答で「違います。友達同士でエントリーして、たまたま並びになったんですよー」と言った。

そういう事にもキュッとする。

 

こんな公のイベントで曖昧な事言えないから、それはそうなんだけど、いつもはただ笑って済ませたり、なんとなくぼんやりしたりしてるから、自分の耳でそれを聞くと、やっぱりさみしくなる。

 

こういう時々、こんな小さいことが少しずつ積まれていって、カブとオジの距離は少しずつ離れていくのかな、って思ったりする。

 

少しずつ変わることは、ほんの少しずつで、ただ環境に合わせスライドしていくだけのことで特に不便でもないし、今まで長い年月をそうしてやって来たのに、

不安っていうのはそんな自信よりはるかに強力で、簡単にカブをぺちゃんこにする。

 

お魚みたいにぺちゃんこでぺらぺらになりながら、明日を願う。

ずっとずっと、終わりなく明日がありますように。